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青森地方裁判所 昭和56年(ワ)6号 判決 1984年4月16日

主文

一  被告らは、各自原告それぞれに対し金九四万九一〇九円およびこれに対する昭和五五年四月五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告吹越勝弘、同有限会社野月建材は、各自原告それぞれに対し、金四〇五万〇八九一円およびこれに対する右同日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その四を被告吹越勝弘、同有限会社野月建材の連帯負担とし、その余を被告日本電信電話公社の負担とする。

五  この判決は主文第一、二項に限り仮に執行することができる。

但し、被告日本電信電話公社が原告らそれぞれに対し、金九四万九一〇九円の担保を供するときは、同被告は、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して各原告それぞれに対し、各金五〇〇万円およびこれに対する昭和五五年四月五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告吹越勝弘、同有限会社野月建材)

1  原告らの被告吹越勝弘(以下被告吹越という。)、同有限会社野月建材(以下被告会社という。)に対する請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

(被告日本電信電話公社)

1  原告らの被告日本電信電話公社(以下被告電々公社という。)に対する請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 第一事故

被告吹越は、昭和五五年四月五日午後五時三〇分ころ、大型貨物自動車(青一一や七二三一号、以下本件ダンプという。)を運転して、青森県上北郡東北町字沢五〇の二付近の県道野辺地・三沢線に西隣する宅地造成予定地から同県道に出ようとしたが、本件ダンプの荷台を上げたままの状態で発進・進行したため、地上五・九メートルの高さで架線されている電話線に荷台を接触させ、これにより右県道西脇に設置されていた電話柱三本(旗屋A線四号柱ないし六号柱)を根本から折損させ、これを右県道上に傾斜させる事故(以下第一事故という。)を惹起した。

(二) 第二事故

訴外田中八十三は、同日午後六時三〇分ころ、自動二輪車(青五ま六二九六)を運転して右同所付近県道を三沢方面から野辺地方面に向けて進行中、右同所付近において、第一事故のため県道上に傾斜していた電話柱(前記五号柱)に衝突し、頸椎骨折により即死した。(以下第二事故という。)

2  被告吹越の責任

被告吹越は、第一事故において、不注意にも前記電話柱三本を折損して県道上に傾斜させ、危険な道路状態を作り出したのであるから、被告電話公社、警察署又は道路管理者である青森県等により、右のごとき危険な道路状態の除去等道路の安全確保の措置がとられるまでは、右県道を通行する車両の危険を防止するため、同所において、車両誘導等の適宜の措置を講ずべき注意義務があつたのに、これを怠り、漫然と現場を離れたため第二事故を招来したものであるから、民法七〇九条により責任を負う。

3  被告会社の責任

被告会社は、右各事故当時、被告吹越を使用していたものであるところ、被告吹越は、被告会社の業務遂行中に第二事故を招来したものであるから、被告会社は、民法七一五条による責任を負う。

4  被告電々公社の責任

(一) 被告電々公社は、土地の工作物である前記電話柱の管理者、所有者であるところ、第一事故直後の同日午後五時三〇分ころ、被告吹越から、前記電話柱が県道上に傾斜し、通行車両にとつて危険な状態になつたことを通報されながら、第二事故発生までの間、危険除去又は道路安全確保のための措置を何ら講じなかつたから、民法七一七条により責任を負う。

(二) 被告電々公社の担当者は、第一事故直後に被告吹越から右事故の通報を受けたものであるが、その際、被告吹越から折損した電話柱の状況、道路の封鎖状況等を詳細に問い糺して二次災害発生の虞れがあることを把握し、直ちに警察署に二次災害発生防止のための措置を要請し、かつ、被告吹越ら加害者側に対し、安全確保の具体的方法を指示すれば、第二事故の発生を防げたにもかかわらず、このような措置を全く取らなかつた過失により第二事故を惹起したものである。したがつて、被告電々公社は、右担当者の使用者として民法七一五条の責任を負う。

5  損害

(一) 訴外田中八十三の損害

(1) 逸失利益

(ア) 訴外田中八十三の年間収入

訴外田中八十三の年間収入は、昭和五二年度賃金センサス男子労働者学歴計の一〇パーセント増が相当であるところ、右金額は、(金一八万三二〇〇円×一二か月+金六一万六九〇〇円)×一・一=金三〇九万六八三〇円となる。

(イ) 生活費控除の割合二分の一

(ウ) 稼働期間 四八年

訴外田中八十三は、第二事故当時満一九歳の会社員であつたから、満六七歳までの四八年間就労が可能である。

(エ) 新ホフマン係数 二四・一二六三

(オ) 逸失利益

金三〇九万六八三〇円×二分の一×二四・一二六三=金三七三五万七五二四円(一円未満切り捨て。)

(2) オートバイ破損による損害

金一二万四〇〇〇円

(3) 相続

原告らは、訴外田中八十三の実父母であるところ、同訴外人の右各損害の賠償請求権を各二分の一宛相続した。

(金三七三五万七五二四円+金一二万四〇〇〇円)×二分の一=金一八七四万〇七六二円

(二) 原告ら固有の損害

(1) 慰藉料 各金五〇〇万円

(2) 葬祭費 各金三五万円

(三) 損益相殺

原告らは、訴外田中八十三の死亡により、それぞれ金一〇〇〇万円を自動車損害賠償責任保険から受領しているので、これを右各損害から控除する。金一八七四万〇七六二円+金五〇〇万円+金三五万円-金一〇〇〇万円=金一四〇九万〇七六二円

(四) 弁護士費用

原告ら各金五〇万円

6  よつて、原告らは、被告らが連帯して各原告に対し、それぞれ右損害金一四五九万〇七六二円の内金五〇〇万円およびこれに対する第二事故の日である昭和五五年四月五日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告吹越、同会社)

1  請求原因記載1の事実はいずれも認める。但し、第一事故の発生時刻は午後五時三〇分過ころである。

2  同2の事実は否認する。

被告吹越は、第一事故直後、電話柱の設置管理者である野辺地電話局へ電話柱の折損・県道上への傾斜の事実を通報し、その除去等の適宜な措置をとるよう要請する一方で、県道を通行する車両の危険を防止するため、車両の誘導を行つた。しかるに、被告吹越の通報後約一時間を経過しても右電話局による措置が講ぜられなかつたため、被告吹越は、そこに居合わせた人に車両の誘導を依頼し、再度右電話局に迅速な措置を要請するため、本件現場を離れたところ本件事故が発生したもので、被告吹越には過失がない。

3  同3の事実のうち、被告会社が被告吹越の使用者であり、第二事故が被告会社の業務遂行中に発生したものであることは認め、その余は否認する。

4  同5の事実のうち、原告らが、訴外田中八十三の権利義務を各二分の一宛相続したことは認め、その余は不知。

5  同6の主張は争う。

(被告電々公社)

1  請求原因記載1の事実のうち、第一事故発生の時刻は不知、その余はいずれも認める。但し、県道上に傾斜した電話柱は二本であつた。

2  同4の事実のうち、被告電々公社が電話柱の管理者、所有者であることは認め、その余は否認ないし争う。第二事故は、被告吹越の道路交通法七二条一項に定める道路における危険を防止するための必要な措置を講ずる義務および第一事故の内容等をもよりの警察の警察官に報告する義務をそれぞれ怠つた過失並びに被害者の訴外田中八十三の前方注視義務違反に基因して発生したものであり、第二事故の発生と被告所有の電話柱が折損・傾斜していたこととの間には、法律上の因果関係がない。

3  同5の事実のうち、原告らが訴外田中八十三の権利義務を各二分の一宛相続したことは認め、その余は不知。但し、同訴外人の逸失利益はライプニツツ式により算出されるべきである。

4  同6の主張は争う。

三  被告らの抗弁および主張

(被告ら全員)

1 第二事故は、訴外田中八十三が前方を注視し、自車を減速したり、ハンドル・ブレーキを的確に操作するなどして、折損・傾斜した電話柱を回避することを不注意にも怠り、漫然と進行を続けた重大な過失によつて惹起されたものであるから、過失相殺がなされるべきである。

(被告電々公社の主張)

2 野辺地電報電話局の職員が第一事故の連絡を受けてから第二事故が発生するまで約三〇分しかたつておらず、同局から本件現場まで自動車で約二五分かかることを考え併せると、同局職員が第二事故発生前に、折損した電話柱を復旧・除去することは不可能であり、被告電々公社には右電話柱の設置保存に瑕疵がなかつた。(最高裁判所昭和五〇年六月二六日判決。)

四  被告らの抗弁および主張に対する認否

被告らの抗弁および主張記載の事実は全て否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因記載1、(一)および(二)の各事実は各当事者間に争いがない。なお、成立につき争いのない甲第八、九号証、第一〇号証の一ないし二一、第一一号証の一、二、第一五号証、第一六号証の一ないし八、第一八号証(但し、後記措信しない部分を除く)、証人飛内周一の証言およびこれにより真正に成立したことが認められる乙第一号証の二、証人小形典巳の証言およびこれにより真正に成立したことが認められる乙第二号証の一、二、証人鈴木和彦の証言によると、第一事故が発生した時刻は、午後五時三〇分過ころであること、第一事故により折損した電話柱は旗屋A線四号柱ないし六号柱であり、そのうち四、五号柱が県道上に約三〇度の角度で傾斜し、県道の野辺地方向へ向かう車線を塞ぐ形になつたこと、訴外田中八十三は、右五号柱に激突して死亡したことがそれぞれ認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  被告らの責任

1  第一事故発生後の状況

前掲各証拠並びに成立につき争いのない甲第一二、一三号証、第一九号証(但し、後記措信しない部分を除く)、被告吹越勝弘本人尋問の結果(同右)によると次の事実を認めることができる。

(一)  事故現場の状況

本件現場付近の県道は、第一事故により、県道の野辺地方向に向かつて左脇に設置されていた電話柱三本(旗屋A線四号柱ないし六号柱)が折損され、そのうち、もつとも三沢寄りの旗屋A線四号柱と真中の同五号柱が、県道の野辺地方向へ向かう車線を塞ぐような形で約三〇度の角度で傾斜したため、右車線の車両の通行ができなくなり、三沢方向へ向かう車線を利用して片側通行をするような形になつた。右県道の当時の交通量は、五分間に五、六台の車両が通過する程度であり、時間がたつに連れて、次第に交通量が増えていつた。また第一事故が起きた午後五時三〇分ころはまだ明るかつたものの、本件事故当日の日の入りは午後六時六分ころであつて、時間の経過とともに次第に暗くなつてきており、日没後の午後六時三〇分ころの見通しは、約三〇メートル程度となつていた。したがつて、第一事故後の本件現場の状況は、折損された電話柱がそのまま放置されれば第二次の交通事故の発生が容易に予見されるような極めて危険な状態となつた。

(二)  被告吹越らの行動

被告吹越は、第一事故発生直後、ダンプの荷台に電話線がひつかかつたと直感してダンプを停止し、運転台のドアを開いて旗屋A線四、五号柱が県道上に約三〇度の角度で傾斜しているのを確認したうえ、付近にいた人の誘導で、右電話柱が倒れないようにゆつくりとダンプを後退させて、もとの宅地造成予定地内に戻つた。被告吹越は、ダンプカーから降りて電話柱を確かめると、旗屋A線四、五号柱が前記のごとく県道上に傾斜していることおよび同六号柱が県道の方に少し傾いているのを確認した。なお、その際、県道を通交している大型車の中には、右電話柱に妨害されて通行することができず、県道を引き返していくものも見られた。被告吹越は、付近にいた人に通行車両の誘導を依頼したうえ、旗屋A線四号柱付近にある南部クボタという会社まで行き、午後六時ころまでに同会社の職員に依頼して野辺地電報電話局に電話柱を折損した旨通報して貰うとともに、被告吹越自身で被告会社に第一事故の通報と現場への応援を依頼した。被告吹越は、その後現場の旗屋A線六号柱付近に戻つて通行車両の誘導をしたり二回にわたつて南部クボタから被告会社に電話連絡を取るなどするうち、午後六時二〇分ころ被告会社からの電話が南部クボタにかかつてきた旨連絡を受けたので、本件現場に見張りや誘導者を置くなどの措置を取らずに南部クボタに行き、被告会社の代表者と電話連絡をしていたところ、午後六時三〇分ころ第二事故が発生した。被告吹越は、第一事故発生後から第二事故発生までの間に、第一事故の発生と現場の状況とを警察に連絡することも、本件現場にカラーコーンを置いたりバリケードを築くなどして県道を通行する車両が傾斜した電話柱に接触・衝突することを防ぐなどの措置を講じることもなかつた。

一方、被告会社の代表者は、被告吹越から午後六時ころまでに第一事故の連絡を初めて受け、その後も同被告から電話連絡を受けたが、同被告に第二次の交通事故防止のための具体的方策を指示するとか、第一事故の状況等を警察に通報することもなく、野辺地電報電話局に第一事故の発生を通報するに止まつた。

(三)  被告電々公社の対応

第一事故のあつた昭和五五年四月五日は土曜日であり、野辺地電報電話局では、同日午後四時四五分以後は、機械課の職員鈴木和彦の外は交換手三名位が勤務していた。右鈴木は、同日午後六時ころまでに南部クボタの職員から第一事故の通報を受け、これを非番の機械課長に連絡した。同課長は、非番の職員を集め、同日午後六時二五分ころ、資材を整えたうえ本件現場に出発し、午後六時五〇分ころ本件現場に到着して、直ちに電話柱を引き起こす作業に取りかかり午後七時ころまでにはその作業を終了した。なお、野辺地電報電話局の職員も、被告会社の代表者に「二次災害防止のため現場に、人や車に対しての誘導員を置いてほしい」旨要請したのみで、第一事故を警察に通報することはしなかつた。

以上の事実が認められる。甲第一八、一九号証、被告吹越勝弘本人尋問の結果中には、第一事故発生の時刻が午後五時三〇分よりも前である旨、右事故発生を野辺地電報電話局に通報した時刻が遅くとも午後五時四〇分ころであつた旨、右通報は、同被告本人がなした旨の右認定と異る供述部分が存するが、被告吹越勝弘本人尋問の結果中には、第一事故発生時刻について、時計等で明確に確認した訳ではないことを自認している部分や、同被告自身が野辺地電報電話局に架電したのか否かについて、「(他の人に)全然頼まないとは言いきれない」等とあいまいな供述をしている部分が存することに加えて、前掲各証拠によると、被告吹越が第一事故後、右事故の発生により相当に周章狼狽していたことが明らかで、同被告の供述に高い信用性を措くことはできないというべきであるし、さらに、第一事故発生から野辺地電報電話局に右事故を通報するに至るまでの同被告の行動(前記二、1、(二)参照)に照らすと、第一事故発生から野辺地電報電話局に通報するまでに相当の時間が経過していると推測されることが認められ、これに前記認定どおりの内容の前出乙第一号証の二、第二号証の一、二、証人鈴木和彦の証言が存することを併せ考えると、右被告吹越勝弘本人尋問の結果中の右供述部分等は措信できない。また、被告会社代表者本人尋問の結果中にも、前記認定に反する供述部分が存するが、右供述自体あいまいであるし、被告吹越勝弘本人尋問の結果とも相違していて、信用できない。そして、他に、前記認定を覆すに足りる証拠はない。

2  被告吹越、同会社の責任

前記二、一、(一)の本件現場の第一事故後の状況に照らすと、右事故を惹起した被告吹越に、原告ら主張の注意義務が存したこと(請求原因記載2)および前記二、1、(二)の同被告らの行動によると、同被告が右注意義務を怠り、第二事故を招来したことは明らかであつて、同被告は民法七〇九条の責任を負うと認められる。

また、右認定事実に加えて、被告会社が被告吹越の使用者であり、第二事故が被告吹越の被告会社の業務執行中に発生したものであることが原告と被告会社との間で争いがないから、被告会社は、民法七一五条の使用者責任を負うと認められる。

3  被告電々公社の責任(民法七一七条)

被告電々公社が土地の工作物である旗屋A線四号柱ないし六号柱の管理者、所有者であることは原告と被告電々公社との間で争いがない。そして前記一記載の各証拠によると、第一事故により旗屋A線四、五号柱が折損して県道上に約三〇度の角度で傾斜し、県道の野辺地方向へ向かう車線を塞ぐ形になつたため、県道を通行する車両に危険をもたらす状況になつたこと、このように、右各電柱が通常有する安全性を欠くに至つたことから、バイクを運転して県道を野辺地方向に向けて走行してきた訴外田中八十三が右五号柱に激突して死亡するという第二事故が発生したことがそれぞれ認められる。

ところで、被告電々公社は、野辺地電報電話局の職員にとつては、第一事故発生の連絡を受けてから第二事故が発生するまでに折損・傾斜した電話柱を復旧・除去することが不可能であつたから、被告電々公社には、右電話柱の設置・保存に瑕疵がなかつた旨主張するが、前記二、1冒頭掲記の各証拠によると、野辺地電報電話局の職員が、第一事故発生後の午後六時ころ、前記南部クボタの職員から第一事故の発生と電話柱の折損・傾斜により交通事故の発生が予想されるような現場の状況であることを通報され、右各事実を知るに至つたこと(この点で被告電々公社引用の最高裁判所判決とは、事案を異にする。)、右電話局職員又は他の担当者が、右通報後直ちに、本件現場付近の警察署に第一事故の発生と本件現場の状況等を告げて、本件現場付近の交通整理等の交通事故防止のための措置を依頼していれば、第二事故の発生を未然に防止し得たこと、右電話局の担当者等としては、第一事故の通報を受けてから本件現場に急行するまでに担当の時間を要することを知悉しており、その間、交通事故発生を防止するための措置がとられなければ、折損・傾斜した電話柱に基因して交通事故が発生することは当然予想し得たこと、しかるに、右電話局の担当者等は、被告会社の代表者に電話で二次災害が起こらないよう措置することを要請したのみで、警察署への通報はしなかつたがそれぞれ認められ、右認定事実によると、第二事故が、被告電々公社にとつて回避することのできない不可抗力によるものであるとは到底認められず、被告電々公社につき、本件電話柱(旗屋A線四、五号柱)の保存に瑕疵があつたことは明らかである。

さらに、被告電々公社は、電話柱の折損・傾斜(電話柱の保存の瑕疵)と第二事故の発生とは法律上の因果関係が存しない旨主張するが、第二事故が、被告吹越、同会社の過失と被告電々公社の電話柱の保存の瑕疵とが競合して発生したことは前記二、1で認定した事実に照らし明らかである。

三  損害

1  訴外田中八十三の損害

(一)  逸失利益

(1) 訴外田中八十三の年間収入

成立につき争いがない甲第一七号証、原告田中要次郎本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したことが認められる甲第四、五号証(但し、被告電々公社との間で成立につき争いがない。)によると、訴外田中八十三は、昭和五五年三月に高校を卒業し、同年四月一日から訴外タイク電子株式会社に就職し、同月五日に本件事故で死亡したこと、右訴外会社での給与は、月給金七万九六〇〇円であつたことがそれぞれ認められる。しかし、訴外田中八十三の将来の収入を右給与をもとにして算定することは、同訴外人の今後の昇給の可能性が高いこと等を考慮すると、不合理であると認められ、むしろ、賃金センサス男子労働者学歴計をもとにして算定するのが相当である。

成立につき争いのない甲第二二号証によると、第二事故直前の昭和五二年度賃金センサス男子労働者学歴計の「きまつて支給する現金給与額」は一か月金一八万三二〇〇円、年間金二一九万八四〇〇円、「年間賞与その他特別給与額」年間金六一万六九〇〇円の合計金二八一万五三〇〇円であることが認められるところ、成立につき争いのない甲第二一号証によつて認められる昭和五七年度賃金センサス男子労働者学歴計の各金額に比較すると、第二事故当時の賃金としては、右昭和五二年度金額の一〇パーセント増にあたる金三〇九万六八三〇円とするのが相当である。

(2) 生活費控除の割合

前出甲第一七号証、原告田中要次郎本人尋問の結果によると、訴外田中八十三は、第二事故当時独身の男性で、両親と同居しながら前記訴外タイク電子株式会社に通勤していたものであることが認められ、右認定事実によると、訴外田中八十三の将来支出すべき生活費は、年間収入の五割とするのが相当である。

(3) 稼働期間

右各証拠および成立につき争いのない甲第三号証によると、訴外田中八十三は昭和三六年五月一〇日生まれの健康な男性であることが認められ、右事実によると、同訴外人は、満六七歳になるまでの四八年間就労が可能であると認められる。

(4) 逸失利益

訴外田中八十三の稼働期間が右のとおり四八年間という長期間にわたることを考慮すると、中間利息の控除については、ライプニツツ式(係数一八・〇七七一五七八二)によることが相当であるから、これにより同訴外人の逸失利益を計算すると

金三〇九万六八三〇円×二分の一×一八・〇七七一五七八二=金二七九九万〇九四二円(一円未満切捨、以下同じ。)

となる。

(二)  オートバイ破損による損害

原告田中要次郎本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したことが認められる甲第六号証(但し、被告電々公社との間では成立につき争いがない。)によると、第二事故により訴外田中八十三所有のバイクが破損し、金一二万四〇〇〇円相当の損害を蒙つたことが認められる。

(三)  相続

原告らが訴外田中八十三の権利義務を各二分の一宛相続したことは当事者間に争いがない。

すると、原告らの相続により取得した損害賠償請求権は、いずれも(金二七九九万〇九四二円+金一二万四〇〇〇円)×二分の一=金一四〇五万七四七一円

となる。

2  原告ら固有の損害

(一)  慰藉料

原告田中要次郎本人尋問の結果および前出甲第一七号証によると、原告らは、第二事故により最愛の子供を失い、大きな精神的衝激を受けたことが認められ、これを慰藉するには原告らそれぞれに対し金五〇〇万円が相当である。

(二)  葬祭費

弁論の全趣旨によると原告らが共同して訴外田中八十三の葬儀のため金七〇万円以上を出費したと認められるところ、そのうち原告らそれぞれにつき金三五万円が第二事故と相当因果関係にある損害であると認められる。

3  弁護士費用

以上により、原告らは、それぞれ被告ら各自に対し、前記各金員を請求し得るものであるが、弁論の全趣旨によると、被告らにおいてその任意の弁済に応じないので、弁護士たる本件原告ら訴訟代理人両名にその取立を委任し、所定の手数料、成功報酬の支払を約したものと認められるところ、そのうち、原告らそれぞれにつき金五〇万円が第二事故と相当因果関係の範囲内にある損害であると認められる。そうすると、原告らの損害は、それぞれ

金一四〇五万七四七一円+金五〇〇万円+金三五万円+金五〇万円=金一九九〇万七四七一円

となる。

4  過失相殺

前記二、1冒頭掲記の各証拠によると、第二事故の発生にあたつては、訴外田中八十三に前方不注視の過失があつたことが明らかであるが、右各証拠によつて認められる第一事故後の本件現場の状況(前記二、1、(一)参照)、ことに、視界が約三〇メートルと悪い状態で、かつ、運転者にとつて普通予想のしにくい位置(頭上)に電話柱が傾斜していたことおよび被告らの責任内容に徴すると、訴外田中八十三の過失割合は、被告電々公社に対する関係では四割五分、その余の被告らとの関係では二割とするのが相当であるから、これを過失相殺すると、原告らの受くべき金額は、それぞれ

(一)  被告吹越、同会社

金一九九〇万七四七一円×八割=金一五九二万五九七六円

(二)  被告電々公社

金一九九〇万七四七一円×五割五分=一〇九四万九一〇九円

となる。

5  損益相殺

前出甲第一七号証および弁論の全趣旨を総合すると、原告らが、訴外田中八十三死亡により、それぞれ金一〇〇〇万円を自動車損害賠償責任保険から受領していることが認められるから、これを原告らの損害から控除すると、それぞれ

(一)  被告吹越、同会社

金一五九二万五九七六円-金一〇〇〇万円=五九二万五九七六円

(二)  被告電々公社

金一〇九四万九一〇九円-金一〇〇〇万円=金九四万九一〇九円

となる。

四  結論

してみると、その余の点を判断するまでもなく、原告らの請求のうち被告吹越、同会社に対する請求、並びに被告電々公社に対する請求のうち原告ら各自に対し各金九四万九一〇九円およびこれに対する第二事故発生の日である昭和五五年四月五日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度における請求はいずれも理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言およびその免脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小林正)

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